PEの血栓除去術
ポイント
・病態としては、肺高血圧症→右室圧・右房圧の上昇→右心不全→左心前負荷の低下→体血圧の低下。
・血栓を除去しても末梢まで取り切れるわけではないので、肺高血圧は継続するので、NOの準備をしておく。そのほか、肺高血圧を助長しない薬剤選択や管理を行う。具体的には、呼吸管理では、胸腔内圧の増加により、右心不全を助長させる可能性があるため、PEEPの付加に注意する。1回換気量は6ml/kgがガイドラインでは推奨されている。
・肺高血圧症から右心に圧負荷がかかり、左心にVolumeが行かない状態になっている。右心不全のような状態。理論的には、陽性変力作用で右心拍出量を増加させることで循環不全の改善が期待できる。
・CPB拍動下で行うこともできるが、小さな血栓が多数の区域動脈に存在する症例、血栓が強固に壁に付着した症例では、心停止下に行う。
・PFOは予後不良因子なので、TEEでチェックしておく。
・術前に血栓溶解療法施行例では、止血が困難になることがある。FFPやPCをしっかりと頼んでおく。
・血栓子摘除直後に、肺の再灌流障害のために肺出血を起こすことがある。PEEPを高めにかけて、出血気管支内に閉塞用バルーンを留置して止血する。CPB中はヘパリン化されているため、出血部位の同定は困難。出血がコントロールできない時は、PCPSに移行してからヘパリンを中和して、肺出血がおさまるまでPCPSによる循環管理を行う。
準備
普段通り+NO+ミルリノン+ピトレシン
症例
主訴:息切れ、動悸
所見:頻脈、右心不全なし
Dダイマー 19.68, トロポニンI 0.017(正常値)、動脈血ガスなし、eGFR 64
右房内血栓、PVE、膝窩動脈血栓
治療方針
重篤なショックはないが、右房内の血栓サイズが大きく、PEになった場合は循環破綻する可能性が極めて高いため、緊急で外科的血栓除去術となった。
また外科的手術を行うため、すぐからの抗凝固療法ができない可能性があるため、術直後に下大静脈フィルター挿入予定となった。
ガイドライン照会
急性PTEの外科的治療
Class I : 重篤なショックあるいは心肺停止を伴う急性広範型PTEで、血栓溶解療法禁忌例、血栓溶解療法無効例、PCPS導入例、昇圧役投与でも循環動体の維持が困難な例。
Class Ⅱa : 急性広範型あるいは亜広範型PTEで、継続的抗凝固療法高リスク例には外科的治療を考慮する。
本症例は、エビデンスレベルなし。
『右房または右室内に浮遊血栓子が存在する場合の予後はきわめて不良であり、手術適応には議論があるが、少なくてもすでにPTEを起こしており、浮遊性の大きな血栓子を認める場合には血栓摘除術を考慮する。』に該当。
IVCフィルターに関する推奨
Class Ⅰ:抗凝固療法ができないVTEに対し、IVCフィルターを留置する。(ただし、末梢型DVTでは中枢への伸展例に限る。)
本症例は、術後の出血具合により、抗凝固療法が行い得ない可能性があるためリーズナブル。外科的治療後はPEの二次予防のためにIVCフィルターを留置する施設が多いとの記載あり。
麻酔方法
今回はイレギュラーで左心不全状態(+頻脈)だったため、β作動薬が使用しづらい。左室の収縮を上げるとともに肺血管抵抗を下げるため、PDEⅢ阻害薬(ミルリノン)を使用。
PDEⅢ inhibitor による体血管抵抗低下を防ぐため、肺血管抵抗を上げないピトレシンを使用。
当院での希釈
ミルリノン20mg/50ml (0.4mg/ml)
腎排泄のため、腎機能低下例では使用量を減量する。
50kgの場合、添付文書通りですと、6.25ml/hrで10分、3.75ml/hr (1.8-5.6ml/hr)で持続投与。
初期投与なしだと効果を得られるのに30分以上かかるが、3時間後は初期投与ありなしともに心係数も血中濃度も差がないという報告がある。(Am Heart J 2001; 141: 266–273)
副作用は、不整脈、血圧低下、血小板減少。
ピトレシン 20U/20ml (1U/ml)
腎集合体のV2受容体に作用して水の再吸収を調整する抗利尿作用と、血管平滑筋のV1受容体に作用して末梢血管を収縮させる昇圧作用がある。各有効血中濃度は、0.9〜6.5 pmol/lと9〜187 pmol/lで異なる。(N Engl J Med. 2001 Aug 23;345(8):588-95.)
0.03-0.04U/min以上の高用量の投与については臓器虚血との関連が報告されている。
昇圧は現在、適応外使用。厚労省へは、0.01-0.04U/minの用量で申請をかけている。
手術
胸骨正中切開 上行大動脈送血、SVC・IVC脱血、右上肺静脈から左室ベント、大動脈前面にルート針
SVC・IVCスネアして拍動下に右房切開 右房内血栓が見当たらなかったため、肺動脈に飛んだ可能性がある。肺動脈のできるかぎり末梢まで血栓除去が必要になるかもしれないため、ここで大動脈遮断して心静止とした。
肺動脈分岐部を縦切開。内視鏡と胎盤鉗子で可視範囲内の血栓を摘出。
次に右肺動脈を大動脈とSVCの間から露出し、前面を縦切開。同様に内視鏡と胎盤鉗子を用いて、可視範囲での血栓を摘出。
肺動脈の切開線を二重縫合。
心腔内の粗大なair抜き。(左心系は開いていないが、肺循環を通してairは来る。)
大動脈デクランプ
右房閉鎖
TEEにて遺残血栓がないか確認
ベント抜去、ルートベント抜去
CPB off
IVC脱血管抜去、SVC脱血管抜去 SVC脱血管に右房内にあったと思われる血栓が吸着していた。
プロタミンを投与開始
送血管抜去
止血
心嚢と胸骨下にドレーン留置
心嚢内を洗浄後に大動脈前面の心膜・脂肪織を粗に縫合
胸骨ワイヤーにて閉胸
骨膜・筋膜・皮下・真皮縫合
手術終了
その後、AG室へ移動し、回収可能型IVCフィルター Gunther Tulipを挿入。
術後指示
sBP 90-130mmHg, Hb>9
術後経過
1PODで止血良好なため、ヘパリン開始できたので、2PODでIVCフィルター抜去。
その数日後よりリクシアナに変更。(DOACは担癌患者だったり、癌の種類によって、選択肢が異なるとのこと。今回は、リクシアナ)
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